浦和地方裁判所 平成4年(ワ)1377号・平5年(ワ)1316号・平5年(ワ)1991号 判決
平成五年(ワ)第一三一六号 妨害物撤去等請求事件(以下「乙事件」という。)
平成五年(ワ)第一九九一号 建物等収去土地明渡等請求事件(以下「丙事件」という。)
東京都北区<以下省略>
甲、乙及び丙事件原告
X運輸株式会社
右代表者代表取締役
A
右訴訟代理人弁護士
福本嘉明
東京都北区<以下省略>
甲、乙及び丙事件被告
株式会社Y1商店
右代表者代表取締役
B
埼玉県川口市<以下省略>
甲及び乙事件被告
Y2
右Y2保佐人
B
右被告ら訴訟代理人弁護士
井深泰夫
主文
一 被告らは、原告に対し、別紙第一物件目録記載の建物を明け渡し、かつ、平成四年一〇月一六日から右明渡済みまで各自一か月金二〇万円の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告に対し、別紙第三物件目録記載の土地のうち、添付図面赤斜線部分の土地を明け渡し、かつ、平成五年八月一四日から右明渡済みまで各自一か月金七万円の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告に対し、別紙仮設倉庫目録記載の仮設倉庫を明け渡し、かつ、平成五年八月一四日から右明渡済みまで各自一か月金一万円の割合による金員を支払え。
四 被告株式会社Y1商店は、原告に対し、別紙第五物件目録(一)ないし(四)記載の建物、オイル格納庫、ブロック塀、ガソリンスタンド一式を収去して、別紙第四物件日録記載の土地を明け渡し、かつ、平成五年一一月一日から右明渡済みまで一か月金七万円の割合による金員を支払え。
五 訴訟費用は、被告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文と同旨
第二事案の概要
本件は、原告が、被告らに対し、①事務所兼居宅の所有権に基づいてその明渡を求め(甲事件)、②土地所有権及び仮設倉庫の所有権に基づきその土地及び仮設倉庫の明渡を求め(乙事件)、③土地の賃貸借契約終了に基づき地上のガソリンスタンド施設等の収去と土地の明渡を求めた(丙事件)事案である。
一 争いのない事実等(証拠の記載がなければ争いのない事実である。)
1 原告は、昭和二九年六月八日、亡C(以下「C」という。昭和五九年三月二六日死亡)が設立し、一般区域貨物自動車運送事業及び石油製品の販売等を目的とする会社である。
原告の代表取締役A(以下「A」という。)はCの二男、被告Y2(以下「被告Y2」という。)はCの三男である。
被告Y2は、昭和三六年ころ、aビール名古屋出張所富山倉庫に勤務し、昭和四〇年ころ帰京し、原告から別紙第一物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を無償で貸与され、二階部分に居住するようになった。その後、被告Y2は、原告の業務に従事していたが、ガソリンスタンドの営業部門を原告から分離することになり、昭和四一年一〇月、被告株式会社Y1商店(以下「被告会社」という。)を設立し、被告Y2がその代表取締役に就任してガソリンスタンドの営業をするようになった。
2 本件建物は、原告の所有であり、被告Y2は居宅として、被告会社は倉庫としてこれを使用し、占有している。
3 原告は、別紙第二物件目録記載(一)の倉庫(以下「一号倉庫」という。)、(二)の倉庫、別紙仮設倉庫目録記載の仮設倉庫(以下「仮設倉庫」という。)及び別紙第三物件目録記載の(一)ないし(三)の土地を所有している。
4 被告らは、一号倉庫と別紙第三物件目録記載の土地(以下「第三土地」という。)にドラム缶、オイル缶、タイヤ等を置き、また自動車駐車場として使用し、これらを占有していた。そこで、原告は、右の物品及び自動車等の撤去を求めて、当裁判所に妨害物撤去等の仮処分を申請し(当庁平成五年(ヨ)第九号)、右事件につき、平成五年五月二七日、概略次のとおり暫定的和解が成立した(以下「本件和解」という。甲一一の7)。
(一) 一号倉庫内の物品は、原告が設置した仮設倉庫に移動し、原告は、本案判決確定までの間、被告らが仮設倉庫を使用することを認める。本案訴訟で被告らが一号倉庫を使用する権利を有していなかったことが確定した場合には、被告らは、原告に対し、仮設倉庫内に搬入した物品を撤去する。
(二) 第三土地上の自動車及び物品について、原告は、本案訴訟が完結するまでの間、被告らが第三土地のうち別紙図面赤斜線の範囲内の土地部分(以下「赤斜線部分の土地」という。)を使用することを暫定的に認める。ただし、使用貸借による権利を認めたものではない。
(三) 被告らは、原告が一号倉庫を第三者に賃貸するにつき、客の紹介を中止するように仲介業者に架電したり、倉庫を賃借しようとする者に円満な倉庫の使用ができないような言動を取るなどして、原告が第三者に倉庫を賃貸するのを妨害しない。
(四) 被告らは、赤斜線部分の土地以外の土地に物を置いたり自動車を駐車するなどして、原告及び倉庫賃借人の土地使用を妨害しない。
右の和解に基づき、被告らは、仮設倉庫及び赤斜線の部分の土地を使用している。
5 原告は、別紙第四物件目録記載の土地(以下「第四土地」という。)を所有している。
第四土地上に存する別紙第五物件目録(一)の建物、(三)のブロック塀、(四)のガソリンスタンド施設一式(ただし、後に被告会社が設置したものもある。)は、もと原告の所有で、原告の給油部門を構成していたが、昭和四一年一〇月一八日(ただし、譲渡年月日を同年一一月一日とする)、被告会社に二〇四万二七二四円で売却した(以下「本件売買契約」という。甲五)。
次いで、昭和四一年一一月一日、原告は、被告会社に対し、別紙第五物件目録(二)のオイル格納庫(以下「オイル格納庫」という。)部分を除く第四土地を、賃料一か月二万三五五二円(年間二八万二六二四円)、使用目的ガソリンスタンド用地、期間五年間とし五年毎に更新するとの約定で賃貸した(以下「本件賃貸借契約」という。甲四)。その後、賃料は昭和四七年から一か月三万五三二八円(年間四二万三九三六円)となった(乙二七の1ないし7、六五)。
二 原告の主張
1 甲事件について
(一) 本件建物の二階部分については、原告と被告Y2との間に使用貸借契約があったが、一階部分は、被告Y2及び被告会社が無断で使用をしているものである。
(二) 原告は、被告Y2に対し、平成四年九月一二日到達の内容証明郵便で、本件建物の二階部分の使用貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
(三) 仮に、その余の部分の使用貸借契約が存在したとしても、原告は、被告らに対し、平成四年一二月二二日付け準備書面によって本件建物全体について解除する旨の意思表示をした。
右の解除理由は、①本件建物は、当初原告の業務又は福利厚生施設であったが、被告Y2は、昭和四一年以降原告の社員ではなくなったこと、②被告Y2が本件建物の二階部分に居住するようになってから約三五年経過し、使用貸借契約に基づく使用収益すべき期間は経過していること、③被告Y2は、昭和六〇年二月川口市本町に居住用のマンションを購入しており、本件建物に居住する必要はないこと、④被告Y2及び被告会社は、一号倉庫の内部、第三土地上にドラム缶、オイル缶等を放置し、自動車を駐車するなどして、原告の倉庫賃貸の営業に重大な支障を及ぼしているばかりか、被告Y2は、昭和五七年ころから実兄である原告代表者Aに対し、代表権、株主権を争い、Cの相続問題もからんで紛争状態を継続させ、原告の営業妨害行為をしており、その信頼関係を破壊していること、⑤被告らは、本訴提起後も、原告が構内の倉庫の賃貸を計画するについて、その仲介業者や倉庫改修工事の建築業者に圧力をかけ、あるいは業者にナイフを突き付ける等の妨害行為を行い、信頼関係を破壊したこと等である。
(四) 本件建物の賃料相当額は一か月二〇万円である。
2 乙事件について
(一) 被告ら主張の抗弁事実はいずれも争い、その他の原告の主張は、甲及び丙事件の主張と同旨である。
(二) 第三土地の内赤斜線部分の土地の賃料相当額は一か月七万円、仮設倉庫の賃料相当額は一か月一万円を下らない。
3 丙事件について
(一) 被告会社は、本件賃貸借契約の後、オイル格納庫(以下「オイル格納庫」という。)を設置してその敷地部分を占有している。
(二) 本件賃貸借契約は旧借地法の適用のない賃貸借契約であり、更新後は期間の定めのない契約となった。
(三) 被告会社(代表者被告Y2)は、甲事件で主張したとおり各種の妨害行為を行い、その信頼関係は完全に破壊された。また、本件賃貸借契約は既に長期間経過し、その使用目的も十分達成された。
(四) 原告は、被告会社に対し、平成四年一〇月二八日到達の内容証明郵便で本件賃貸借契約を解約する旨の意思表示をした。したがって、それから一年の経過により本件賃貸借契約は終了した。
(五) 第四土地の賃料相当額は一か月七万円を下らない。
4 甲、乙及び丙事件の予備的主張
(一) 本件和解の後、被告Y2は、和解条項に反して、①仮設倉庫の前に、常時ボルボ外の自動車を駐車したり、定められた土地部分からはみ出して自動車を駐車したり、ドラム缶を置いたりしており、②平成八年八月、原告の取引先である協和倉庫株式会杜の専務取締役Dに電話で原告との取引を止めるように要求し、さらに、同年九月ころ、一号倉庫を賃借するかどうか見に来た株式会社タジマの社長Eに対し、「この倉庫は裁判中のため貸すことはできない」と述べ、③被告Y2の妻Bは、平成六年一、二月ころ、不動産業者が連れてきた客に対し、「この倉庫は漏電している」と述べるなど、原告の営業を妨害する行為を繰り返しており、そのため原告との信頼関係は、全ての契約関係を含めて破壊されている。
(二) 原告は、平成六年六月一四日(第一二回口頭弁論期日)、本件準備書面(平成六年五月一〇日付け)により、原告と被告ら間の本件賃貸借契約及び使用貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
三 被告らの主張
1 甲事件について
(一) 被告Y2は、昭和四〇年ころ、原告から家族の住居として本件建物を無償で借り受けた。そして、被告会社設立のときからガソリンスタンド営業所等と共に一階部分もそのまま承継したのであり、その際、被告会社がガソリンスタンド営業を継続し、その使用を必要とする限り使用できるという使用貸借契約が成立した。
(二) 本件建物は、昭和四九年四月及び昭和五二年一〇月ごろ増改築工事がされているが、右工事は、原告代表者Cと被告Y2が協議して原告が施主、被告会社がその費用を出している。最初の工事代金は一七九万円、次の工事は約三二〇万円であった。これは、二階部分を被告Y2が、一階部分を被告会社が長期間使用するとの前提で負担したのである。
(三) 原告主張の川口市本町のマンションは、被告Y2の長男及び長女が使用しているものであり、被告Y2は他に住居を有していない。
(四) 原告主張の被告らによる妨害行為は否認する。ドラム缶等はガソリンスタンドの営業のためのものであり、原告が営業していた当時から同じ使用の仕方をしていた。
また、原告主張の代表権、株主権の争いは、相当の理由があってのことであり、これをもって信頼関係が破壊されたとの主張は理由がない。
2 乙事件について
(一) 一号倉庫及び第三土地の使用方法は、被告会社の設立前と後で変化はなく、原告が一号倉庫から物品の撤去を要求するようになったのは、最近のことである。被告会社は原告の給油部門の事業を引き継いだときから原告に対して第四土地についての賃料を支払っており、本件賃貸借契約に付随してこれらを使用しているものである。
(二) 右使用につき明確な権利関係がなかったとしても、原告は、被告会社設立当初から二〇数年間にわたって被告会社が一号倉庫及び第三土地を使用することを認めてきたのであり、被告会社にとってこれらは必要不可欠であるから、合理的理由もなくその使用を拒絶するのは権利の濫用である。
3 丙事件について
(一) 本件賃貸借契約書には、期間五年の定めがあるが、堅固建物所有を目的とするものであるから、期間の定めはなかったものとみなされ、その期間は六〇年となる。
仮に旧借地法の適用のない賃貸借契約であるとしても、その使用目的を達してはいない。
(二) オイル格納庫は、原告が所有していたもので、コンプレッサー、計量メーター、照明器具、ジャッキ二台等と共にガソリンスタンドの営業のため有機的一体として本件売買契約の対象となっているものである。そして本件賃貸借契約に付随してその敷地を使用することになったのである。仮に付随的使用が認められないとしても、使用貸借契約関係が成立しており、未だその使用目的を達してはいない。
(三) そうでないとしても、原告からの給油部門の引き継ぎの経過、原告が被告会社のガソリンスタンドの営業に協力してきた経過、ガソリンスタンドが鉄筋施設であること、これまで莫大な費用をかけてきたこと、代表者が代わるや一転して従来の契約関係と信頼関係を踏みにじり、ガソリンスタンドの営業を不可能にし、永年にわたる被告会社及び被告Y2ののれんをすべて喪失せしめ、生活の手段を奪うことは、信義則に反し、権利の濫用として許されない。
4 甲、乙及び丙事件について
原告と被告らの争いは、いずれも死亡したCの遺産争いそのものであり、円満に遺産の承継がなされていない状況下での争いである。原告代表者であるAは、あらゆる手段を弄して、遺産から生じる収益のほとんどを独占しようとしているものであり、本件各訴訟は、その一手段としてなされているものであるから、権利の濫用として許されるべきものではない。
5 甲、乙及び丙事件の予備的主張について
(一) 仮設倉庫の前に必要に応じてボルボ外の自動車を駐車させ、あるいは赤斜線部分の土地からはみだして駐車したり、ドラム缶を置いていたことは認めるが、原告の営業の妨害にはなっていない。協和倉庫運輸株式会杜の件は否認し、株式会社タジマの人に話したことは認める。また、Bが、不動産業者が客を連れてきたとき、一号倉庫と連結している自宅の火災報知器が鳴り出したので、Aに対し、「借りる人がいるなら、火災報知器を直さなくては」と述べたことはある。
(二) 原告が、被告らに対し、本件賃貸借契約及び使用貸借契約解除の意思表示をしたことは認める。
四 争点
1 (甲事件)
本件建物の使用貸借契約は終了しているか。
2 (乙事件)
一号倉庫及び第三土地の使用貸借契約は終了しているか。
3 (丙事件)
(一) 第四土地の賃借権につき旧借地法の適用があるか。
(二) 原告の請求は権利の濫用となるか。
第三争点に対する判断
一 甲事件について
1 前記認定の事実及び証拠(被告Y2本人、文中記載の証拠)によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告Y2は、昭和四〇年ころから父Cの意向で本件建物の二階部分に無償で居住するようになり、その一階部分は当初原告が事務所として使用していたが、次第に被告会社の倉庫として利用するようになり、結局、被告らが使用し、占有するようになっていった。
被告らは、昭和四九年五月ころと昭和五二年一〇月ころの二回、本件建物の増改築工事をしたが、最初の工事代金は一七九万円、二回目の工事代金は約三二〇万であり、被告らがこれを負担した(乙一の1ないし6、二ないし四)。
(二) 被告Y2は、平成一〇年一二月一〇日、小脳出血により高度の意識障害を伴う重症発作を起こし、緊急開頭血腫除去手術を受け、判断能力は著しく不十分な状態にあり、平成一二年五月一日、浦和家庭裁判所は、申立により、Y2について保佐を開始し、妻Bを保佐人に選任した(浦和家庭裁判所平成一一年家第六七五号及び平成一二年(家)第五四二号事件審判)。
平成一一年六月二五日、Bが被告会社の代表取締役に就任し、長男Fが被告会社の営業を任されて、一家を支えている。また、被告Y2の長女及び次女は、いずれも精神分裂病に罹患し、入退院を繰り返している。
被告Y2は、被告会社の経営で一時は多くの利益を上げることができ、三戸のマンションを購入していたが、平成一一年八月、一戸を一九五〇万円で、もう一戸を二五〇〇万円で処分している(乙七五)。
(三) 原告は、被告らに対し、平成四年九月一二日到着の内容証明郵便で、本件建物の使用貸借契約を解除する旨の意思表示をした。なお一階部分については無断使用との前提で右の意思表示をしているが、本件建物全体について本件建物からの退去を求めているので、一階部分について使用貸借契約が成立している場合にはその解除を求めている趣旨と理解することができる(甲一の1、2)。
2 ところで、被告らは、昭和四〇年ころから本件建物を無償で使用し、その使用貸借関係は右使用貸借契約解除の平成四年時点で既に二七年に及んでおり(口頭弁論終結時では約三五年)、無償使用を許したCも既に死亡し、前記及び後記認定の諸事情を考慮しても、民法五九七条二項にいう本件建物の使用貸借につき使用収益をするのに足りる期間は十分経過し、右契約は終了したものと認めるのが相当である。被告ら主張の諸事情は、右認定を覆すには足りないものというべきである。
また、被告らの権利濫用の主張が理由のないものであることは明らかである。
本件建物の賃料相当額は、弁論の全趣旨によると、一か月二〇万円は下らないものと認めることができる。
二 乙事件について
1 被告らは、被告会社の設立当時から一号倉庫及び第三土地をガソリンスタンドの営業のために使用し、本件賃貸借契約に付随してこれらを使用する権原があると主張するが、本件賃貸借契約書(甲四)にはそのような記載はなく、被告会社の営業のためには便利ではあるところから、当然に右契約に付随して使用する権原が発生するというものではなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、被告らは、被告会社設立当初から、使用に関する明確な契約を締結することなく、一号倉庫及び第三土地にドラム缶、オイル缶、タイヤ等を置き、また自動車駐車場として使用してきたが、原告はその明け渡しを強く求めるようなことはなく、いわば長期間その使用を是認してきたのである(被告本人)。してみると、原告と被告らとの間に使用貸借関係が成立していたと推認することができる。
2 原告は、被告らに対し、平成五年一月、一号倉庫及び第三土地のドラム缶、オイル缶、石油ストーブ、タイヤ、事故車両等、被告らが存置した一切の物件、及び、右土地上に駐車した自動車の撤去等を求める仮処分の申請をし(当庁平成五年(ヨ)第九号)、前記認定のとおり暫定的使用を認める本件和解が成立した(甲一一の1ないし7)。なお、原告は、右の仮処分申請手続のなかで、仮定的に、使用貸借契約解除の主張をしている(甲一一の4)。
3 ところで、一号倉庫及び第三土地の使用貸借は、昭和四一年一〇月の被告会社設立時からであり、甲事件の場合と同様、使用収益をするのに足りる期間は十分経過し、右契約は終了したものと認めるのが相当である。
また、被告らの権利濫用の主張が理由のないものであることは明らかである。
本件和解に基づき被告らが使用している赤斜線部分の土地及び仮設倉庫の各賃料相当額は、弁論の全趣旨によると、前者が一か月七万円、後者が一か月一万円を下らないことが認められる。
三 丙事件について
1 本件賃貸借契約と旧借地法の適用の有無
旧借地法一条にいう「建物ノ所有ヲ目的トスル」とは、土地の賃借の主たる目的がその土地上に建物を所有する場合をいい、その主たる目的が建物所有以外にある場合には、仮に賃借人が付属の事務所、倉庫等の建物を所有することの承諾を得ていたとしても、これに含まれないと解するのが相当である。
証拠(乙一九の1ないし14、二〇の1ないし12、二一の1、2、二九の1、2、4ないし6、三〇の1ないし8、被告Y2本人)によると、次の事実が認められる。
(一) 本件賃貸借契約書(甲四)には、①対象土地(第四土地)をガソリンスタンド用地として使用する、②賃貸借期間は五年間として五年毎に契約を更新する、と明記されており、「建物ノ所有ヲ目的トスル」ことを窺わせる記載はない。
(二) 第四土地の上には、ガソリンスタンドが存在し、雨が降っても作業ができるようにキャノピー(赤い屋根模様の設備)、販売店舗、事務所(四・五坪程)、地下タンク(基礎を造り、鋼材製のタンクをコンクリートで固め地下に固定する)、計量器、洗車機等が備えられている。右事務所等の建物の敷地面積は、第四土地の面積に比べて僅かである。
以上によると、本件賃貸借契約の主たる目的がその地上に建物を所有することにあるとはいえず、旧借地法の適用対象とはならないことは明らかである。
2 そうすると、本件賃貸借契約は、民法が適用される土地の賃貸借契約ということになる。
五年の期間満了後は、期間の定めのない賃貸借契約となり、その場合の解約申し入れについては、民法六一七条一項一号が適用されることになる。
そこで、原告は、被告会社に対し、平成四年一〇月二八日到達の内容証明郵便で本件賃貸借契約を解約する旨の意思表示をした(甲二三の1、2)。
したがって、本件賃貸借契約は、右の意思表示から一年の経過をもって終了した。
オイル格納庫の設置者及び設置時期について争いがあるが、被告会社の所有であることについては当事者間に争いがない。
第四土地の賃料相当額は、弁論の全趣旨によると、一か月七万円を下らないことが認められる。
3 権利濫用の有無
被告らは、①原告からの給油部門の引き継ぎは、Cが、同人の事業に功績のあった被告Y2にこれを経営させるためであり、Cは、他の子供(G、A、H)に対してもそれぞれ財産を与えており、本件争いはCの遺産争いであること、②ガソリンスタンドが鉄骨施設であり、これまで営業を継続し、発展させるために多額の費用を要してきたこと、③右の営業は、被告Y2一家の生計を支える重大な資産であり、これを奪うことは権利の濫用であると主張する。
確かに、本件は、実質的には原告代表者Aと被告Y2を含む兄弟問の遺産の争いが背景に存在し、複雑な権利関係が未だ決着をみていないことが原因の一つとなっていることを窺うことができる(被告Y2本人)。
しかしながら、本件賃貸借契約は前記認定のとおりもともと民法上の土地の賃貸借契約であること、原告による解約の意思表示は、契約締緒時から既に約二六年も経過してからのものであり(口頭弁論終結時では約三四年)、Aにも原因があったとしても、被告Y2において円満に本件契約関係を維持する努力を欠いたことも原因となって、右の解約の意思表示を受けるに至ったものである。
また、証拠(甲四、乙五九)によると、原告代表取締役であったCは、①被告会社に対し、昭和四六年八月二四日付けの内容証明郵便で、五年の期間満了時に第四土地(ガソリンスタンド用地)の返還を求め、②被告Y2に対し、昭和四六年一一月一〇日付け内容証明郵便で、本件建物の明け渡しを求めており、Cと被告Y2間の信頼関係にも溝ができていたことやCにおいて本件賃貸借契約が堅固建物所有目的の借地権のような強固な権利関係であるとの認識を持っていなかったことが窺われるのである。
以上によると、被告の主張の諸事情を考慮したとしても、原告の請求が権利濫用となるものではなく、被告らの主張は採用することができない。
なお、当裁判所は、長期間にわたり、第四土地(及び赤斜線の一部の土地)について被告らが安定してこれらを利用でき、原告もトラブルもなく倉庫業を営むことができるような方向での和解による解決を目指したが、双方の合意に至らなかったことを付言しておく。
四 以上によると、原告の請求はいずれも理由があるので、認容する。なお、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤康)
別紙
第一物件目録
川口市○○b丁目三一番一九号所在
木造亜鉛葺二階建、事務所、居宅
一階 八六・三五平方メートル
二階 七八・九一平方メートル
第二物件目録
(一) 所在 川口市○○b丁目参壱番地壱九、参壱番地弐〇、参壱番地弐、参壱番地壱
家屋番号 参壱番壱九
種類 倉庫
構造 鉄骨造スレート葺平家建
床面積 九九八・〇〇平方メートル
(二) 所在 川口市○○b丁目参壱番地壱六、参壱番地壱七
家屋番号 参壱番壱六
種類 倉庫
構造 鉄骨造スレート葺平家建
床面積 四壱八・参弐平方メートル
第三物件目録
(一) 川口市○○b丁目参壱番壱、宅地壱四七・弍九平方メートル
(二) 同所参壱番弍、宅地参弍八・〇四平方メートル
(三) 同所参壱番参、宅地参参弍・七弍平方メートル
(四) 同所参壱番四、宅地参弍五・五参平方メートル
(五) 同所参壱番五、宅地壱四五・五〇平方メートル
(六) 同所参壱番六、宅地弍四五・〇七平方メートル
(七) 同所参壱番七、宅地参九〇・五七平方メートル
(八) 同所参壱番壱六、宅地四七壱・六八平方メートル
(九) 同所参壱番壱七、宅地壱参四・四〇平方メートル
(一〇) 同所参壱番壱八、宅地壱七・七〇平方メートル
(一一) 同所参壱番壱九、宅地参六九・壱八平方メートル
(一二) 同所参壱番弍〇、宅地壱七〇・壱四平方メートル
の各土地のうち、ガソリンスタンド敷地、並びに、一号倉庫、二号倉庫、及び未登記事務所の各建物敷地を除く部分約壱壱参壱・参参平方メートル (別紙図面赤斜線、及び青斜線部分)
第四物件目録
(一) 川口市○○b丁目参壱番弐、宅地参弐八・〇四平方メートル
(二) 同所参壱番参、宅地参参弐・七弐平方メートル
(三) 同所参壱番四、宅地参弐五・五参平方メートル
のうち、別紙図面の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(リ)、(ヌ)―(イ)の各点を順次結んだ土地部分
約四五二・五平方メートル
第五物件目録
(一) 川口市○○b丁目参壱番四所在
コンブロ陸屋根平家建事務所 壱弐・参九平方メートル
(別紙図面「スタンド事務所」と表示した部分)
(二) 同所所在
軽量ブロック造スレート葺オイル格納庫
(別紙図面「オイル格納庫」と表示した部分)
(三) 同所参壱番弐、同番参、同番四所在
ブロック塀
(別紙図面橙色部分)
(四) ガソリンスタンド施設 一式
仮設倉庫目録
一、仮設倉庫一棟
仮設倉庫寸法
形式 スタンダード型(N型)
品名 N三〇型
軒高 二六七〇mm
梁間 三八〇〇mm以上
桁行 三八〇〇mm以上
床面積 三六〇〇×三六〇〇mm
仮設倉庫仕様
基礎 木杭
土台 木製八五×八五mm
大引 軽量形鋼
柱 軽量形鋼
小屋組 軽量形鋼 切妻
屋根 カラー鉄板瓦棒式
外壁 カラー鉄板
内壁 ベニヤ
建具 アルミサッシ
出入口引違戸・窓
天井 なし(特別仕様 ベニヤ製天井パネル)
床 パネル式 九〇九×一八二〇mm
ベニヤ九mm
(別紙図面緑色部分)
<以下省略>